平成25年10月、福岡市博多区の診療所で発生した火災死亡事故を受けて、平成26年建築基準法が改正され、平成28年6月1日に施行されました。

定期報告の対象建築物の見直し

これまで特定行政庁で定めていた対象建築物の規模や用途を、政令で一律に定めることとなりました。ただし、すべてを政令で定めるというわけではなく「安全上・防火上・衛生上」の観点から特に重要なものを定め、それ以外は従来通り特定行政庁が各地の状況に合わせて定めます。

つまり、国で必ず定期報告が必要な建築物の最低ラインを決めて、それ以上の部分は特定行政庁で、地域の実情に合わせて規模や用途を決めることになります。

今回の改正で国がわざわざ指定する必要があるとなった経緯は、火災で高齢者等の避難困難者が死亡する事故が続いたことが大きく影響しています。問題となったのは、小規模の診療所や老人ホームなどが各地の定期報告の対象建築物から外れていたことです。定期報告の対象となっていれば、調査・検査時に設備の不具合や不備に気づき、改善ができた可能性があります。そうであれば、万が一火災事故等が発生した場合でも、被害を最小限に留められたかもしれません。

例えば、診療所の場合、
①3階以上の階に用途がある
②2フロアの合計床面積が300㎡以上
③地階に用途がある
①②③のいずれかの条件に当てはまれば定期報告の対象となります。
ホテル・旅館の用途などでも、ほぼ同じような条件が定められていますので、小規模の旅館やホステルなども対象となってきます。ただし、避難階(1階の場合が多い)のみに用途がある場合は対象外となります。

政令で指定する建築物の考え方

「平成28年6月1日施行 改正後の定期報告制度について」国⼟交通省 住宅局 建築指導課 より

さらに、昨今増加しています「サービス付き高齢者住宅(いわゆる「サ高住」)」は、建物用途は共同住宅であっても高齢者が寝泊まりすることから、「就寝用福祉施設」として定期報告の対象に指定されました。

定期報告の対象となる建築物(就寝用福祉施設)

「平成28年6月1日施行 改正後の定期報告制度について」国⼟交通省 住宅局 建築指導課 より

上記のように、高齢者・障がい者・妊産婦など、避難困難者が就寝する建物については、より一層安全に配慮する必要があるという考え方です。

「防火設備」検査報告を新設

防火扉イメージ火災死亡事故のあった建物で、被害を拡大させてしまった要因の一つが防火設備の不備でした。火災時に防火扉が適切に閉まらなければ、当然防火区画が形成されないので、階段室内にも煙がどんどん入ってきてしまいます。建築設計では、煙や炎が出火階以外に一定時間広がらないように区画するようになっています。特に屋内階段は、上階の人が地上まで降りる重要な避難ルートですので、煙や炎が簡単に入ってきては困ります。

今回の改正においてどんな防火設備が検査報告の対象になるのか見てみましょう。
大きく4つです。

  1. 防火扉
  2. 防火シャッター
  3. 耐火クロススクリーン
  4. ドレンチャー

耐火クロススクリーンは防火シャッターよりも重量が軽く、大きな開口などで使われますが、使用場所による設置制限があるため、全体としてそれほど多く設置されていません。またドレンチャーも天井の散水ヘッドから水を噴射し、水幕を作ることで区画を形成する方式で、駅や大規模商業施設など限られた用途での設置がほとんどです。
ここでは設置数で圧倒的に多い防火扉と防火シャッターについて見てみましょう。

設置されている防火設備が、検査対象となるかどうかを判断する上で、キーワードとなるのが閉鎖方式です。「常時閉鎖式」の防火扉は、言葉の通り普段から閉めたままで使用する扉です。それに対して「随時閉鎖式」の防火扉や防火シャッターは、普段は開いた状態となっており、火災時に自動的に閉鎖するものを言います。
今回対象となるのは「随時閉鎖式」の防火設備です。「常時閉鎖式」の防火設備については、従来通り建築物の定期調査時に点検します。随時閉鎖式は、温度ヒューズの熔解による閉鎖と感知器連動による閉鎖があります。(温度ヒューズ式は現行法では設置できません。既存不適格となります。)
ただし、随時閉鎖式でも外壁の開口部に設置されているものは、防火区画を形成するものに比べ重要度が低くなるため、建築物調査時の調査でみます。

煙感知器で火災を感知しても、実際に防火扉や防火シャッターが閉鎖しなければ意味がありません。よくみられるのが、紐やくさび、ダンボール等で扉が閉まってこないように固定してしまっている事例です。また扉前やシャッター降下部分に物品や棚などを置いてしまっている事例もあります。それから、実際に感知器が反応してもロックがはずれなかったり、ドアチェックがサビ等で機能しないこともあります。

このように不備があると万が一の災害時に機能しませんので、日常的に作動させる設備ではなからこそ、定期的な検査が必要というわけです。
検査は「毎年」で、対象防火設備は「全数検査」となります。

定期調査・検査資格者制度の見直し

特定建築物調査員 資格者証サンプル

資格者証イメージ

建築基準法第12条で定められた定期報告を行う場合、もちろん資格者が調査・検査を行う必要があります。
一級建築士・二級建築士に加え、指定された講習会を修了することで得られる資格者の3種類がありました。今回の改正では、一級建築士・二級建築士に関して特に変更点はありません。大きく変更があったのは上記の講習会修了資格者となります。

まず名称がそれぞれ変わり、防火設備検査資格が新設されました。

改正前 改正後
特殊建築物等調査資格者 → 特定建築物調査員
建築設備検査資格者 → 建築設備検査員
昇降機検査資格者 → 昇降機等検査員
なし → 防火設備検査員(新設)

さらに、指定講習修了資格者は、管轄の地方整備局等を通じて国土交通大臣に資格者証の交付申請を行い、資格者証の交付を受けなければ業務を行えなくなりました。
一級建築士・二級建築士の資格で定期報告業務が行われた場合に、虚偽報告などの不誠実な行為があった場合、建築士法の規定によって罰することができます。また、建築士が業務として仕事を請け負う場合、必ず都道府県に対して建築士事務所登録をしなければなりません。

このように、建築士は建築物の設計や監理という建物を造る上で、安全に直結する業務を行います。戦後の法体系の中で、一定の水準を担保するため法的な規定がしっかりと出来ています。しかし、指定講習修了資格者については従来、このような法規定が整備されてこなかったため、いい加減な調査・検査を行ったり、虚偽の報告書を提出したりしても罰することが出来ませんでした。そこで今回、指定講習修了資格者に関する内容が法律で明記され、国が監督等を行うこととなりました。建築基準法令への違反や不誠実な行為があれば、資格者証の返納を求めることができ、返納命令に違反すれば30万円以下の過料となります。

定期報告制度における対象建築物の拡大、検査設備の拡大に加え、資格者制度の厳格化により、調査・検査内容の質の向上にも配慮された改正内容だと言えます。

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