建築基準法第12条 定期報告とは?

不特定多数の人が利用する建物を調査・検査する定期報告制度は、建築基準法で定められた制度です。建築基準法の歴史は古く、制定は昭和25年です。この当時の内容には、現行のような制度は盛り込まれていませんでしたが、特定行政庁が報告を求めることができるという条文が含まれていました。
それから昭和34年、昭和45年の法改正を経て、現在につながる定期報告制度が誕生しました。

どんな建物であっても建築基準法では、所有者及び管理者に「維持保全」の義務を課しています。適法な状態に保つことはもちろん、経年による劣化や損傷で安全性が保たれないような状態を放置することは、資産的な価値を落とすとともに、最悪の場合事故につながり、生命に関わる問題となります。

定期報告では、一級建築士、二級建築士や講習修了資格者に対象となる建築物を、調査・検査させ、定期に特定行政庁へ報告することと定められています。

この定期報告制度は「特殊建築物」を対象としています。これは、どんな建物であっても法的に維持保全の努力義務はありますが、特殊建築物と言われる特に公共性の高い建物や、不特定多数の一般の人が利用する建物は、より高い安全性が求められるため定期的にチェックをして、行政へ報告することとなっています。

定期報告の種類

平成28年6月施行の法改正で、高齢者等の自力避難困難者が就寝する用途の建物についても、政令で全国一律に定期報告の対象建築物として定めることとなりました。これは、平成25年10月に、福岡市博多区の診療所で発生した火災死亡事故を受けての改正でした。これまで各特定行政庁の判断で決めていた対象建築物を、国で最低ラインを一律に定めた格好になります。この時「特殊建築物」という言葉も、定期報告において「特定建築物」という言葉に改められました。

特定建築物の定期調査の他に、「建築設備」定期検査、「防火設備」定期検査(平成28年6月新設)、「昇降機・遊戯施設」の定期検査があります。
建物全体を見る特定建築物は「調査」という言葉を使い、設備等は「検査」という言葉を使っています。ちなみに、国や地方公共団体の所有・管理する建物の場合は、定期「点検」という言葉を使用します。

一つの建物で、複数の種類の定期報告を行う必要が出てきますので、所有・管理する建物がどの定期報告を行わなければならないのか、各特定行政庁で用意されています対象建物の一覧表等から判断しなければなりません。

定期報告制度の必要性

国土交通省・建築物防災推進協議会 パンプレット

国土交通省・建築物防災推進協議会 パンプレット

一般的に建物を新たに建築する場合、特定行政庁へ建築確認申請を出します。それを建築主事が審査をし、法的な制限等をクリアしているかどうか判断します。確認申請が下りれば、建設工事の着工となりますが、確認申請通りに造られなければ意味がありませんので、中間検査、完了検査を受ける必要があります。この段階では、図面通り施工されているか、手抜き工事はないか、指定された材料がきちんと使用されているかなど、様々な項目を専門資格者がチェックします。このような工程を経て、建物は最終的な完成に至ります。

このように建てられた建築物は、竣工時点では適法状態であるといえます。(それでもチェック漏れや施工ミスなど様々な問題があります。)また、平成10年でも完了検査を受けて検査済証を交付された建物は全体の38%程度で、それ以前は20%台という時代もありました。現存する既存建物の中に、完了検査を受けていない建物がまだまだたくさんあり、どの程度まで適法状態で建築されていたかは不透明です。

このような現状の中、特定行政庁の担当者が対象となるすべての建物を見て回ることは、人的・時間的に不可能です。そこで建築の専門家である建築士等を活用し、建物の現状を報告させる制度が定期報告というわけです。

建築基準法などの建築に関わる法規は、ただただ縛るものではなく、様々な状況での安全のため、長年に渡り考え抜かれてきたものです。また著しい劣化損傷を放置することは、事故の発生を誘発します。誰かが定期的なチェックを行わなければ、危険な事実を見逃し、所有者・管理者としても是正のチャンスを逸してしまいます。そのことが資産価値の低下につながり、万が一の事故の際には管理者責任を問われてしまうことになります。

定期報告制度の課題

建築士等の専門家が、建物を調査・検査し、指摘事項を報告書にまとめたとしても、それが実際に是正されなければ意味がありません。毎年同じ指摘を繰り返し報告する物件もたくさんあります。改修には、まとまった費用がかかるケースもあり、そんなに簡単に直せないというのが本音ではないでしょうか。それでも優先順位をつけて防火や避難に関する指摘事項から改善していくなど所有者・管理者の取り組む姿勢にかかってきます。

特に都市部では、対象となる物件数が数千件から数万件にも及ぶため、特定行政庁で上がってきた報告書をまだまだ活かしきれていません。一般の利用者からすれば、違反度の高い物件から、適切に指導をしてほしいところですが、人手や予算の問題で、すべてを把握して指導を実施する仕組みやオペレーションが、まだまだ整っていないのでしょう。

また、調査・検査する側の建築士等の資格者は、その費用を建物の所有者・管理者側からもらいます。少ない予算でやる場合、それなりの人と時間しかかけられませんから、結局簡便な調査で済ましてしまいます。さらに懸念されるのが、重大な違反ほど、所有者・管理者側の意向で、「報告書に書かないでくれ」ということが起きてしまうことです。民間で仕事として依頼を受ける以上「お客様」になってしまい、立場上厳しい指摘を報告書に書きづらくなります。これでは本来、役所側が求める情報が上がってこないことになりかねません。

報告書にはもちろん建築士等の資格者の個人名が記載されます。当然自身の信用に関わることなので、プライドを持って業務に当たることが期待されますが、そこはやはりビジネスの側面も強く反映されます。粗雑な調査・検査報告を提出する資格者に対しての罰則規定は設けられていますが、どの程度抑止力になるかはわかりません。それよりも仕事の依頼が減るほうが、実際に困る資格者も多くいることでしょう。

まだまだ、課題の多い制度ではありますが、近年報告率も上昇しており、行政側の努力も実を結び認知度も上がってきました。(平成27年3月末現在、建築物の報告率は72.5%となっています。)この制度が徹底されることで、安全な建物が増え、また物件の評価が上がり長期的な資産価値も高まる方向につながれば、この制度の意義が、大きく社会に価値を生むことになります。

用語

※特定行政庁とは・・・
建築主事を置く地方公共団体のことで、建築行政における確認申請の提出先と言えばわかりやすいかと思います。すべての市町村に建築主事が置かれているわけではないので、小さい市町村では、特定行政庁は府や県となります。

※建築主事とは・・・
建築確認を行うために置かれる公務員のことです。現在、建築確認業務は、建築基準適合判定の資格をもつ民間検査機構にも開放されています。

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