特定建築物定期調査の外壁全面打診とは?

平成20年の改正によっていわゆる外壁の全面打診調査が義務付けられました。(※平成20年国土交通省告示第282号

外壁全面打診調査をしなければならないという事ばかりが先行し、建物オーナー様や管理会社様の中には、内容を正確に把握されぬまま実施したケースも多くあるのではないでしょうか。

調査対象となる外装仕上げ材

タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く。)、モルタル等となっています。
特殊建築物の定期調査では、外壁仕上げ材についてまず、目視による劣化損傷状況の確認を行います。さらに手の届く範囲の打診調査を実施し、浮きの有無を判断します。
ここまでは、タイル貼り等の建物は同様に実施しなければなりません。

その上で、

1.手の届く範囲の打診等により異常が認められた場合 及び
2.竣工、外壁改修等の後10年を超えてから最初の調査である場合

に「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」を全面的に打診等により調査しなければならないとなっています。

例外として

1.ただし、当該調査の実施後3年以内に外壁改修もしくは全面打診等が行われることが確実である場合、又は
2.別途歩行者等の安全を確保するための対策を講じられている場合

上記の場合は、全面打診等を実施しなくても差し支えないとなっています。

つまり、定期報告で求められる外壁の全面打診調査は、タイル仕上げ面をすべて打診調査しなければならないわけではありません。さらには、厳密に解釈すれば、築10年未満であっても手の届く範囲の打診調査で、危険な浮きがあれば全面打診調査をしなければなりません。

しかし、現実的にはどの程度の浮きやクラックなどの異常で、全面打診を行わなければならないのか明確な判断材料は提示されていません。調査者が歩行者に危害が及ぶかもしれないと、その程度を判断しなければなりません。

全面打診調査が必要な範囲

では、外壁の全面打診調査を行わなければならない「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」とは、どの範囲を指すのでしょうか。

平成20年4月1日に国土交通省住宅局建築指導課より出された「建築基準法施行規則の一部改正等の施行について(技術的助言)」の内容を確認すると、以下の図のような範囲であるということがわかります。

 全面打診範囲1

一般的な通路等

全面打診範囲2

庇等がある場合

全面打診範囲3

花壇等がある場合

実際には、建物には凹凸があるため判断することが難しい箇所もあるかもしれませんが、概ね全面打診を実施しなければならない範囲を掴むことはできると思います。
また前出の「別途歩行者等の安全を確保するための対策を講じられている場合」とは、図の外壁が落下する範囲への立ち入りを防ぐバリケード等の設置や、落下物防護ネット、防護棚の設置をしている場合を指します。

ここで問題となるのが、建物には当然隣接する土地があり、その土地にはまた別の建物が建っています。縦2:横1の斜線の範囲であっても、実際には人がほとんど入ることのない狭い通路等は、危害を加えるおそれがあるといえるのでしょうか。

このあたりの疑問については、「“不特定”又は“多数”の人が通行する私道、構内通路、広場を有する壁面」となっていることから判断ができそうです。
上記の内容から、概ね全面打診調査が必要な範囲は特定できるのではないかと思います。

原則的には、所有者・調査者において、危害の加わるおそれのある通路等を判断して、外壁のどの範囲を調査するのか決定しなければなりません。

全面打診調査の方法

全面打診範囲が決まれば、次に打診方法を検討しなければなりません。

建物の立地、形状などの条件によって、調査方法が大きく異なることになりますので、予算と合わせて十分な検討が必要です。また、最終的な目的をはっきりさせ、どの程度の精度を求めるのかによっても選択肢が変わってきます。

3階建て程度の低層の建物の場合は、脚立やアップスライダーで打診できる場合もあります。また、5階建て前後になってくると、スカイマスター等の高所作業車を使用して打診調査する方法があります。高所作業車の種類によっては、最大地上高が30m近いものまであり、さらに高い建物でも対応できる場合があります。ただし、高所作業車を使用する場合は、作業車を安全に据え付けるための敷地、道路幅員(アウトリガー張幅)が必要になります。広い敷地があれば問題ないですが、公道を使用する場合には、所轄警察署で道路使用許可をとる必要があります。

高層の建物であったり、地上からの作業が困難な場合は、屋上からゴンドラを吊り、打診調査を行う方法や、屋上からロープで降下して行うブランコ作業で打診調査を行う方法があります。屋上から降下して打診調査をする場合、横移動ができないため、下まで降りてロープ固定位置を横にずらし、再度上から降りてくることを繰り返します。吊られた状態で、縦一列に打診しながら、図面に問題個所を記載していきますので、作業のしづらさはあります。またロープやワイヤーの固定位置に、配管等の障害物がある場合や固定できる箇所が限られる場合は、外壁の全面を打診することが難しいケースもあります。

もっとも確実ではありますが、費用が最も高くなるのが、足場を組む方法です。(1平米あたり700円〜1000円程度が相場)
足場があれば安全に作業がしやすく、外壁面を目の前で見ることができるので、遠目からではわかりづらい細かなクラックも見つけることができます。作業効率、作業精度ともに上がります。しかし定期報告の外壁調査の為だけに足場を組むことは、費用を考えれば現実的ではありませんので、実際には外壁改修工事を前提とした調査となることが多いと言えます。


最後に、赤外線カメラを使用した、外壁の赤外線診断という方法があります。
外壁タイル等の仕上材が太陽熱によって温められると、その熱は、躯体と仕上材がしっかり接着されている場合には、スムーズに躯体に伝わります。しかし、外壁タイル等の仕上材に「浮き」がある場合、躯体と仕上材の間に空気の層ができているため、熱が躯体に伝わりにくく、その部分の表面温度が高くなります。この原理から、赤外線カメラにより仕上材表面の熱分布を撮影し、その画像により仕上材の浮き部分を特定していきます。
足場を組む場合に比べ費用が安く、外壁面を触らずに広い範囲を調査できます。また、熱分布の画像は記録・保存にも優れています。

しかし、一方で雨天等の天候や、外壁面の方角によっては、測定や判断が難しくなる場合があります。また、凹凸のある入り組んだ外壁面や、外壁と赤外線カメラの間に障害物がある場合は、測定が困難となるケースもあります。赤外線カメラは比較的高価な機器であり、機器のランクによっても精度に差があります。また、機器の扱いとともに、浮き部分の画像判断にもやはり経験が必要です。

以上、外壁全面打診調査の内容を見てきました。
まずは、歩行者等の安全を第一に、外壁の落下の危険性がある場所を確認し、全面打診調査が必要な外壁面の範囲を判断します。
そしてその上で、長期修繕計画の時期や予算などの条件を考慮し、どういった方法で、どの程度の調査を実施するのか、所有者、管理者、調査者の間でよく検討しなければなりません。

せっかく調査を実施するのですから、報告の為の調査になってしまわないように、最大限建物の維持管理に活用していただきたいと思います。

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